事業承継税制で注目!『役員』の実務上の留意点
事業承継税制適用のために、後継者が事前に役員である必要が、要件によっては生じます。(下記Ⅵ)
この『役員』について、会社法の役員とその責任、そして税務上の留意点について、ぜひ押さえた上で、事業承継税制活用をご検討ください。
1.会社法における役員 『取締役』『監査役』とは
取締役は、株式会社に必ず置かなければいけない機関で、1人(取締役会設置会社は3人※)以上必要です。
また、監査役は取締役の業務を監査する機関で、取締役設置会社においては監査役1人以上が必要です。
いずれも株式会社との関係は委任契約によっており、株主総会で選任されます。
※旧商法では取締役会設置が義務だったため、すべての株式会社に3人以上の取締役、1人以上の監査役がありました。(下図①)
2.会社・第三者に対する責任
会社によって、株主=社長という同族会社があります。その場合、社長の決定が会社のすべての決定となるわけですから、この『会社に対する責任』を意識することはないかと思います。しかし会社の登記を見てみると、旧商法の関係(上記Ⅰ※参照)で、取締役で社長以外の方の名前が載っていることもあるでしょう。その場合、その他の取締役も会社に対して責任を負っています。また、悪意(知っていた)または重大な過失があった場合で第三者に損害を与えたときは、その第三者に対して損害賠償義務を負うこととなります。
よって、社長以外の取締役の方においても、その責任についてご理解いただく必要があります。
(監査役に対しても、同様に、その職務に対して損害賠償義務を負います)
3.配偶者、親族が(非常勤)取締役となる場合 ~税務上の留意点~
では、同族会社に多いのですが、社長の配偶者や親族が取締役・監査役となっているケースを考えます。社内の生え抜きにはリスクを含めて責任を担う人材がいない場合、社長の身内の方に役員をお願いし登記することがあります。そして名義貸料という名目も含めて、その方に役員報酬を支給するケースも見受けられます。税務調査の現場においては、会社に接点の少ない(あるいは無い)と考えられる方が役員(非常勤役員)となり、報酬を支払うことについて、社会通念上の金額に照らし過大ではないか(あるいは支給そのものの否認)と問われることが、あります。
それに対して事実で対抗する必要があるため、業務実績について、実態の整備が必要と考えます。
4.実態の整備を! (非常勤取締役の場合)
内 容
役員会出席 役員会がある場合、それに出席する。役員会の内容を共有する。議事録に押印する※1職務内容を明確に 職務の内容やその実施状況を明確にして、書類として残す。
その他、実績残し 役員に対して相談があった場合、その内容を書類として残す。等
※1 議事録の押印によって、税務調査でその議事について「知らなかったでは済まない」と指摘されるケースもあります。議事録内容の確認を!
※2 上記の整備をすることで、税務否認リスクが無くなるということではありません。ご留意ください。
5.組織の改編は可能か?
旧商法では役員が複数必要(上記Ⅰ参照)でしたが、現行の会社法では取締役1人も可能です。取締役会を設置する必要が業務上生じる場合(株主が複数いる場合等)や、対外的に取締役会の組織を有していたい場合等を除き、会社法で組織が柔軟化されたことを活かし、実態に登記を合わせていくことも一考です。
6.事業承継税制で設けられている後継者の要件
今年から注目されている『事業承継税制』では、後継者に以下の要件が付されています。(下記要件一部抜粋)
・贈与で利用する場合:贈与日以前継続して3年以上、登記上の役員であること。
・相続で利用する場合:相続開始直前に、登記上の役員であったこと。(被相続人が60歳未満だった場合を除く)
※この税制適用を視野に、後継者候補を予め役員に登記することは、非常に有効です。そこで上記の法務・税務の留意点も踏まえて、思わぬ損害の無いよう万全の対策を講じたいものです。